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書道とインターネット

−伝統と新技術の融合がもたらすもの−

先端技術がライフスタイルを変革することは私達皆が目の当たりしているところです。伝統芸術と先進技術は両極端のようですが、これまでのさまざまな実験的な試みから、書はインターネット技術を利用することで新しい芸術分野を切り開いていく可能性があると思われます。 コンピュータ技術によって社会の価値観が大きく変革するこの時代ですが、これは日本の最も古い伝統芸術である書の未来に関する一考察です。


書とは何か  書道の楽しみ・声楽のように  書道の歴史  書道とインターネット  書道の現状  書道の上達法  書道は芸術として生き延びる

書とは何か

 書というものを知らない外国の方に理解してもらうことを念頭に、書とは何かを私なりに説明しようと思います。
まず、書を広辞苑で引くと
  • かくこと。しるすこと。「書写・清書」
  • かかれた文字。筆跡。「-を鑑賞する」「書道・楷書」
  • かきつけ。手紙。「-を送る」「書簡・願書」
  • 文献。ほん。「-を読む」「書籍・図書」
  • 書経の略
とあります。
 5、を除いていづれも東洋以外にも存在しそうです。しかし、東洋人の書の楽しみようは格別です。
この内書道の書は1、2、を指します。つまり、かかれている内容よりも、文字の姿に重点があります。

書道の楽しみ・声楽のように

 書道のどこがいいのか。
書を味わうという習慣がない国も多くあります。
そのような国であっても文字を見てもらうための工夫はあるようで、レタリングというような言葉に代表されるものです。
肉筆はハンドライティングで、これが東洋では鑑賞の対象として発達しているのです。
 つまり書道の楽しみは手書き文字を楽しむということになります。

 楽しいという字は音楽のです。
日本語の書は楽しいとい文字ではありませんが書道は音楽と同じように同じように楽しいものです。
音楽には器楽と声楽がありますが、私には絵画は器楽に例えられ、書はより声楽に近いような気がします。
どちらも手書き仕事ですが、絵画と違って書は文字や言葉を素材としますので、声楽と共通点があると思われるのです。
色んな声の人があり、色んな歌い方や詩があって楽しいように、書道も色んな線質の人があり、色んな書き方や美しい詩、文字や語句があって楽しさを与えてくれます。

書道の歴史

声楽が音声言語と同時に存在したであろうように、書は文字言語と同時に存在したはずと思われます。
音声言語に叫びや会話や語りや歌があるように、文字言語にも看板・手紙・記録・鑑賞用作品など用途によって違った表現があります。
日本で書道が発達した原因は沢山あるでしょうが、思いつくまま書いてみます。
  • 漢字が象形・指示の基本形から構成されていて面白い形をしている。
  • 物の数だけ漢字があるので覚えるのに歳月を要する。
  • 日本語は表現の工夫が面白い。
  • 筆という筆記用具は豊かな表情をもたらす。
  • 縦線を引く動作に快感がある。
  • 就職の手段であった。
  • 書は人格と言って上手な人は尊敬される。
  • 茶道文学絵画などの文化活動と連動している。
  • 刻字、染色、陶器の絵付け、デジタル書など紙媒体に限定しない楽しみ方もある。
  • 姿勢が良くなる、集中力がつく、漢文や和歌に親しむなど学力面の効果がある。
  • 一生懸けても極め尽くせない幅と深さがあり年齢・性別にかかわらず楽しむ人が多い。
  • 心身の健康を目的にしたり胎教によいとして伝統的に愛されている。
  • ほとんどの日本人が上手に書きたいという。
おそらく他の理由もあると思いますが、これだけでも日本人が書をどのように見ているか理解されたことと思います。

書道とインターネット

 同じ日本語を書くのでも、筆で書くのは難しく、次に、ペン、シャープペンシル、でしょうか。人によって違いはあると思いますが、ボールペンや鉛筆は書きやすく、こうしてキーボードを打つのは最も楽です。
もし書道がなくなっても文字文化は消え去ることはありません。活字だけの世界になったとしたら果たして日本人はそれに耐えられるものでしょうか。音声言語が合成音声ばかりになり声楽や各種の話芸がなくなったと想像してください。人の肉声を聞きたい、自分で発声したいと思いませんか。インターネットの時代に入ったけれど手紙は増えているそうです。一体なぜでしょうか?結局、肉筆には暖かさや思いやりの心を感じるからではないでしょうか。
書作品をテーマにホームページを作ってみて、画像が音声よりも分かりやすく説得力に優れることを知りました。書はインターネット通信で個性を伝えるのに便利な手段として更に発展する可能性があると信じています。さらに重要なことは、先端的な画像処理技術がこれまで経験したことのない新しい世界を開くだろうということも確信しました。書の多面性のリストで見たように、書は画像処理素材として他にはない理想的なものだからです。また、他の会派や漢字・かな・てんこくなどの他分野の知識やテクニックを学ぶ機会が大きくなるので、新しくより個性的な書が生まれやすくなると考えられます。

書道の現状

これまで述べてきたように書は純粋芸術としての要件を備えていますが、他の芸術分野と比べるとちょっと異なるのではないだろうかという人がいることも事実です。
この点について若干詳細に述べたいと思います。
1867年に始まった明治時代には西洋文明に追いつく政策は社会システムの範をヨーロッパに求めました。例えば日本の警察システムはフランスを模倣したものです。1945年に終戦を迎えた以後はモデルがヨーロッパから米国に変りました。このダイナミックな西洋化の動きは多かれ少なかれ日本人の価値感の変化をももたらし、その中で書は日本の古い伝統の様式のひとつとしてちょっと脇に置かれることにもなったのです。近代教育のおかげで音痴はいなくなりましたが、一方では筆や箸でさえも正しく使えない若い日本人が増加することになりました。
また、近代的な住居には伝統的な日本間がなく、芸術品や花卉を飾る床の間や欄間もないため日常的に書や他の東洋芸術を鑑賞する風習が風習が衰退したのです。
反面、中国・日本の埋蔵文化財や古文書の発見が相次ぎ新しい刺激が続いたことによって書道の研究そのものは大いに進みました。印刷技術の向上もあいまって書作品には日本の書道の歴史の中で最盛期とされる平安時代(784年から1184年)に匹敵するほどの名品が数多く生まれています。
前に挙げたリストの理由に、書が単なる就職の手段であったことがあるということを挙げましたが、これは明治33年の義務教育が始まったころからのことです。字の読み書きが就職の条件になったからです。当初履歴書は毛筆で書かれており、うまく書くことが大事で代書屋も盛んだったようです。しかし、戦後は自筆ペン書きが主流となりました。現在ではパソコン仕上げが流行していますが、依然として手書き履歴書を要求するところも多く、やはり肉筆に人柄や能力を見出そうとするからだと思われます。 日本の生活の中で書の位置づけに進展や停滞もありましたが、現在芸術は芸術としての地位も定まり、人々の認識の度合いも格段に高まったと思われます。

書道の上達法

 日本人の多くが書道の上達法を知りたいと思っています。それに関するたくさんの本が売れています。
本で勉強することは良いことではありますが結局は歌の上達法と同じといえます。カラオケに懸けている時間と同じだけ筆を持てば歌と同じだけ書も上手になります。重要なことは筆慣れということで、日記や写経でもかまいませんので、毎日筆を持つということだと思います。
それに付け加えるとしたら、幼いときから良い音楽を聞かせるのと同じように、家庭に書が飾られていて、文字を毛筆で習い始めるということが基礎にあれば学習は難しいものではないと考えられます。
それに付け加えるとしたら、どんなことでもそうですが本物を見ることと、良いコーチに恵まれるということが挙げられます。

書道は芸術として生き延びる

 書道は読めれば良いといえば、そのとおりです。音痴でも差し障りないのと同じことです。実用的な文字言語はパソコンが担当するようになってきたこの時代、人生に必要なのは衣食住のみと考えるかどうかで書というものの存在価値が分かれるところです。
線が語り線で歌い
自由が抑圧された江戸時代には音痴が多く、書道芸術は僻地でのみ栄えました。そうはならないとは思いますが、同じようなことが起これば書道は活字を読み書きするための教育手段としてのみ許されるということになります。。
何度も述べましたが、書道は正しく書く、誠意を持って書く、美しく書くことを通して人々の生活に潤いをもたらす真善美を追求するものです。
書道は総合芸術です。文字を素材にしますので書くにも鑑賞するにも眼と発語機能を使います。色や形がありますので美術です。文学の楽しみも含まれます。書くときのリズムは音楽・舞踊・全身を使うスポーツです。多くの伝統的文房具に支えられてもいます。活用範囲は多岐にわたっています。書家の数だけ書風や研究分野があり活躍の舞台があります。
左手で三味線を弾き右手で筆を持っていれば惚けない、手先の器用な日本人は世界一の学力がある・・といわれたのはもう昔話になってしまいました。
書道の歴史的な運命・変遷を見ると私は書道がなぜ伝統技術・文化遺産として認定されてこなかったかについての理由もわかるように思います。しかし、同時に進化し続けるインターネット技術を最大限に利用することによって書道の将来には明るい無限の可能性があると思います。 。
2001.8.27 壷竹「書とは何か」 2004.11.20.ある人より英訳・改題・加筆。



ご感想メール ありがとうございました
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初めまして
 書とは何かを各分野で見せていただき 感動しております。
3年ほど前から「かな」を習いはじめました。 書道は芸術として生き延びる。のところに、「線が語り線で歌い」と ありますが、これからも心して筆で紙に書き続けて行くことが出来ればと 感じております。有り難う御座いました。  2005/10/24 I.S.

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