No4 こだま
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書は線の芸術です。
線とは意識的に墨をつけた部分全体としてよいと思います。
一気に墨を付けていくので主に細長い面が連続して素材の言葉を表現します。
書を学ぶとはこの線に気力を満たし、線を練り上げることです。
声楽家の発声練習と同様、書家は3日も書かないと手が落ちるので毎日のように筆を持ちます。
ペンや鉛筆を使うまでの日本人は筆を使っていたので古文書は筆慣れたものがほとんどですね。
書の構成要素はただ線のみです。
書と線質との関係を考えてみました。
・線質の良い人は存在する。
・線質が良い人が書が上手とは決まっていない。
・線質の良くない書家も存在する。
・学習によって線に力や多用な技巧を加えることができるが自分の線質の範囲を越えない。
線質である程度個人が特定できることからサインや花押が使われます。
また、その時々の気分や健康状態で変わることから、
筆跡鑑定がフランスでは心理学の一分野をなしカウンセリングの資料として用いられています。
日本でも数十年前までは墨色判断と言う占いがあり、毛筆で一の字を書いて観てもらうことが行われていました。
現在筆跡鑑定は犯罪捜査に使われています。
どんなに名筆を真似て自分の癖をなくしても残っているのが個性です。
その個性を最も輝かせる素材や技法をさがし、書美を追求するのが書作の楽しみではないでしょうか。
最終目標はお手本そっくりに書くことより自分の線質を活かすことですね。
日本の線には中国では使われない側筆があります。筆を鉛筆のように傾けて書きます。
高野切第二種・本阿弥切・元永本古今集などが名筆です。
筆が寝ていても書く人の姿勢がよければ素晴らしい作品となって残ります。
側筆は紙を削ぐように切れ味の良さを見せています。
側筆でなくても日本の線は中国に比べて軽く浅いのが特徴です。
中国は骨や陶器や青銅器などに文字を書いた歴史がありしっかりと彫るように書くのが特徴のようです。
日本は遡っても王羲之までで紙に書いたものを手本にしています。
線の深さを求めるより墨色を鑑賞する歴史があり、真筆を大切にします。
中国が模写や拓本でも良いものは良いとするのと違っています。
筆跡の中に書いた人の息遣いを感じるので偽物では納得できないのでしょう。
また、筆の形も中国のものより繊細です。野毛と呼ばれる先端の一本の毛の働きを大切にします。
面相筆は日本画や書だけではなく油絵などの絵筆としても愛用されています。
箸や刀も日本の方が華奢で使い勝手が良いようです。
食事に匙を使わず箸だけですし、
日本刀は骨を叩き切ることはできませんが楽に振り回せ、鎌倉時代には性能の良い刀が元の来襲を防ぎました。
外国の文化を受け入れるのが得意でそれを軽薄短小に工夫してしまうのが日本人のようです。
漢字からカタカナとひらがなを作ったのも同じでしょう。
ところで、表音文字はカタカナで足りるのにひらがなを創ったのは
筆の線の美しさに魅了されたからではないかと思うのですがいかがでしょうか。
漢字の曲がり角を尖らせずにつるんと回ってしまうのと、
「奈」や「保」の最後の2点を一本の線にして結びにするあたりが仮名文字発明の原則です。
日本人は筆で書かれた細い線が好きなのではないでしょうか。