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NO.19 【 よごと 】
---解説【歳神】---

このページの内容

 あらた)しき>年のはじめ)の初春の今日降る雪のいや)吉事よごと)
 新 年乃始乃 波都波流能 家布敷流由伎能 伊夜之家餘其謄(大伴家持)

 新年の始の初春の今日という日に降るゆきがますますめでたいよいことを積もらせますように。
 『万葉集』の編纂にたずさわった大伴家持が集の最後においた自作の歌。新年の活気を感じます。国の長久・繁栄を寿ぐ気持ちも表れています。

 「とし」を乞う

 さて今回は荒木博之著「やまとことばの人類学」(朝日選書293)から、「とし」について引用紹介させていただきます。かなりの省略になりますがお許しください。君が代の「よ」、千代に八千代にの「よ」を「一年という距離を置いて与えられる生命力」と解釈された理由と正月行事についての考察の一部です。

 延喜式えんぎしき)(平安中期の律令施行細則)には旧暦2月4日、神祇官庁と国司庁において「としごいまつり」が行われるよう定められており今も各地に伝わっています。 「とし」は年であり、また「穀物、特に稲。またそのみのり」をも指示している言葉で、「としごいまつり」は一般には農事のはじまる春に「豊かなみのり」を祈念する祭と理解されています。
 荒木氏はこれに加えて「よ」を乞う祭なら「再生のスピリット」そのものを招き入れる儀礼であり、「とし」を乞う祭は、豊かなみのりを結果せしめる「力・生命力」の「発動」を祈念する祭ではなかったかと提起しました。「力・生命力の発動」とすれば「とし」は『和句解』・『日本釈名』・『和訓栞』にあるように「疾し」「敏し」を語源とすることになります。
 『岩波古語辞典』も「利し」「敏し」「疾し」などを同根に扱い、『即座に鋭く働きかける力のあるさま』と一般化していますが「とし」の意味のなかにはもともとそういった「力の発動」の趣がその本質において存在していると考えられます。

 正月と再生の思想

 正月には年神と呼ばれる正月神(正月様、トシトク様、ワカドシ様)をまつる祭壇を特に設けます。この棚は歳徳棚とか恵方棚とか呼ばれ、恵方に向けてつくられます。恵方というのはその年の年神のやってくる方向で、干支の組み合わせによって決められます。ところが、本来の恵方、明き方は十干十二支といった中国伝来の思想とは関係のない日本独自の思想に基づく方位観念によっていました。たとえば東北地方には前の年のカミナリのなり収まった方角が正月の神様のおられるところとする思想があったことが『真澄遊覧記』で知られます。稲妻と年神とは分ちがたく、穀物の豊穣をもたらし、共同体に繁栄を呼び込む力、生命力としての「よ」そのもの、あるいは「よ」と呼ばれる力、生命力とほとんど一体視することのできる超自然的存在物ではなかったかと考えられます。
 そしてその正月神である年神を、「とし」が穀物生成の生命力の発動を意味していることからも当然想像できることですが、田の神と同一視する考え方は今も日本の各地に残っています。田の神が正月には歳徳になり、盆に精霊となるという俗信などです。

 最近のことですが、生命誕生のメカニズムを解明しようとする研究で、強い電気ショックを多く与えてたんぱく質を合成しようとする実験がなされました。日本古来の思想は単なる迷信とは片付けられないようになるかも知れません。

 年をとる

 正月が共同体に豊穣と繁栄をもたらす年神を呼び込む再生儀礼であることは正月行事の中に多く見られます。
 鹿児島県で「若うおないやしつろ」、沖縄で「うわかくなみそーち」はともに(若くおなりでしょう)の意味で新年の挨拶言葉として近年まで使われていたそうです。元旦に若水を汲み、かまど、仏壇、神棚にあげる風習も各地にありました。

 年玉のこと
 年玉は年毎に更新される生命力、あるいはその力のこめられている特別な呪物を意味していました。たとえば愛知県では祭に小石が神前に供えられたのち、参詣人に年玉といって分かち与えられます。これは祭に際して呼び込まれた生命力が、小石に分与されたことを意味しています。また正月の神詣でや若水迎えに際して供える米を年玉とよんでいる地方は多くあります。米粒に元来再生の力が宿っていると考えるのは当然といえるでしょう。
 「振り米」と称して瀕死の重病人の枕もとで竹筒に入れた米を振ってその命をひきとめようとするのも米のもつ生命力を信じているからで、ゆり動かすことで力が発動するとするのは日本人の古代からの信仰でした。
 鹿児島県のこしき)島では大晦日の夜、「年どん」と呼ばれる鬼が家々を巡り歩いて子供達に訓戒をたれ、年玉と称される丸餅を与えます。「年どん」の来ない家では家長が眠っている子の心臓の上あたりに丸餅をのせますが、やはりこの餅も年玉とよばれます。
 餅はもともと生命力のシンボルでした。杵(男性)と臼(女性)とによって生成された生命力を篭めたものを心臓の形を模して中高につくられたのが餅で、鏡餅をはじめとして正月の餅にはすべて再生の生命力としての年玉が搗き込められているのです。
 日本人は新年にこの餅を食べて再生します。あらたまの年の始の「あらたま」は「再生した新しい生命力」であり、「新魂」をさしていると考えることができます。
 日本人が年齢を数え年で数えるのは、生まれながらにして与えられているひとつの年玉に正月が来るごとに一つずつ「年玉をとりこむ」「年をとる」ためです。甑島では「年どん」が持ってくる年玉の丸餅で年をとり、出雲地方では歳神の投げる年玉にあたって年をとります。
 元旦の食事はトシメシ、セチメシ、トシトリメシと呼ばれ、元旦に雑煮を食べることで年をとったと実感する人が多くいるとされます。雑煮に餅のほかに大根やサトイモが加えられる地方が多いのは大根・里芋は豊穣の力、「よ」が十分にとりこまれた生成力の大きな古来の植物だからでしょう。

 鏡餅のこと
 鏡は魂の容器と考えられていました。神社が鏡を神のしずまるご神体としてきたのも、鏡山と呼ばれる各地の山が神霊のとどまるところとされるのも、鏡に神霊が宿るという信仰に基礎を置いています。鏡餅はしたがって神霊の留まっている餅、目下の議論の文脈からするなら、再生の力、生命力の宿り篭っている餅ということになります。正月の鏡餅を下げ、雑煮や雑炊にして家族一同そろって食べる「鏡開き」「鏡あげ」の意味は鏡餅に留まっている生命力を正月の終わりに当たって更に一人一人が分与されることによって、その力のいっそうの増幅をはかることにあります。

 このように考察すれば日本の正月儀礼は、疑いもなく、生命力を新たに更新することによって復活しようとする一種の再生儀礼であることが明らかになってきます。「あらたまの年のはじめ」はまさしく「新魂あらたま)の年のはじめ」でなければならなかったのです。

(正月の飾り物ついても語路合せでない解釈が詳しくなされています。
以上、荒木博之著「やまとことばの人類学」、3部構成のうち「第三部日本人の宇宙論とことば」のあらましを前回と今回の2回で紹介させていただきました。)
 正月に年をとることがなくなって新年の喜びが減ったように思います。雑煮を祝って年があらたまることは力強いことです。更新の行事は一年の仕事始めでもあったのですね。雪がよいことをたくさん運んできてくれますように。
 あらた)しき>年のはじめ)の初春の今日降る雪のいや)吉事よごと)
解説は画像の下に続きます

いや重け吉事



 鄭羲下碑

 書風は北魏の鄭道昭(?〜516)の「鄭羲下碑ていぎかひ)」を参考にしました。

 「鄭羲下碑」は、河南省の漢魏以来の漢民族名家で北魏の貴族、文才ある重臣であった鄭羲(426〜492)の事跡などを記した顕彰碑です。
 没後20年を経て次男の鄭道昭が任地の近く、山東半島の雲峰山に刻した摩崖碑で、はじめ天柱山の岩壁に刻したのが上碑、石質のよい場所を見つけて彫り直したのが、下碑(511)です。
 上碑は風化してしまいましたが、下碑は今も全文が読める状態です。
 宋の「金石録」に1113年の記録があり、清の時代に金石学者阮元が訪れて1793年紹介し、包世臣が「藝舟双揖」で、康有為が「広藝舟双揖」で激賞し、この楷書は北朝第一の書とまで言われ、流行しはじめました。

 鄭道昭

 鄭道昭、字は僖伯。幼少より学問を好み、群書を博覧したといい、自ら中岳先生と号しました。北魏の孝文帝に仕え、秘書・教育分野で累進して、国立大学総長、秘書監、光州刺史、青州刺史、再び秘書監、没して文恭とおくりな)されました。
 光州・青州刺史時代の行政は法律主義を排した寛容なやり方で、市民の信望を得たということです。作品の多くはこの光州在任中にその管内の名山の崖石を磨き、刻したもので、父の顕彰碑のみならず、遊山の題字や詩、論経書詩、仙人を慕う道家的な詠嘆などで、神仙・道家の説に深く傾倒していたことを物語っています。

 学問の家柄ではありましたが、父鄭羲が収賄で有名だったのに対し、文学と学問に深い素養をもつ慎み深い人となりで、筆法からは北朝らしい大きな気象を併せ持っていたと考えられています。
 なお鄭道昭の第3子、鄭述祖(字は恭文)も北斉時代の書人として著名で、父ゆかりの雲峰山にやはり記や銘を遺し、81歳で卒しています(565)。

                                             2001.8.4.加筆

 主な参考文献  「中国法書ガイド22 北魏 鄭道昭 鄭羲下碑」 二玄社


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