古筆美手習机 19
墨色の変化
美しい行
前頁の続きです。
行を臨書するに当たり、色んな形の「は」が含まれていることに加えて、 美しい行を選びました。
そして、この臨書の狙いは美しさを真似することと意識して、何が美しいかと考えて、 墨色の変化が第一ではないかと、その墨の濃淡を似せることに努力しました。墨のつけ方が多いとかすれない、かすれると今度は色が付かない、 なかなかそっくりの色にはなりません。
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「はるやとき」の下方「ヽわかむ」が含墨してあるかどうか、 データ入力のときに判断に迷ったのですが、書いてみてやはりここで墨を入れたくなります。 ちょっとだけ墨をつけると書けはしますがいま一つ似ません。 そこで穂先をなめて水分を補うことで書けるということに気付きました。 そうすると、はやくかすれさせても心配ないという、こころのゆとりを得て、 濃い墨で書くようになり、今までの墨量の多すぎを卒業することができました。 そして、ついに穂先をなめなくても「ヽわかむ」が書けるようになり、 ここで書き手は含墨しなかっただろうし穂先をなめてもいなかっただろうと思うに至りました。
今回のうち「わがころもでに」だけは淡墨の色でしたので、なめらかな書き味でした。
一行の墨色変化
漢字はよく拓本を見て学びますが、かなはたいてい肉筆で伝えられてきました。 木版手本もあったでしょうが、多くは和歌の先生が手書きで伝えたようです。 樋口一葉も和歌の師匠のところで講師をしたそうですね。今はこうして印刷技術が進んで、直接平安時代のものを手本にすることができます。 木版や拓本では学べないのがこの墨色ではないでしょうか。 とはいっても、今使っている手本でも、実物に比べるとずいぶん違います。 美術館に行くなり、先生に習うなりして肉筆のパワーを感じ取り記憶する必要を感じます。
色反転の画像も作ってみました。墨色が消えるとその分感心が形にむきます。 これは私の臨書を使っていますのでこの形を信用しないでくださいね。 漢字の形の工夫はこうして進んだのではないかと思います。
歌1首を2行に書いているうちの1行ですので、長い行です。2回の含墨も見られます。 かなの美が漢字のもつ造形美とは違って、伸びやかな線と墨色の変化に求められ、 その原点ともいえる「高野切れ第1種」です。行の重心が高かったり低かったり、 単調にならない配慮を感じます。
次のページに筆遣いについて書きます。
2003.4.3.